次世代郊外まちづくり」は、2017年より、たまプラーザにおける活動を田園都市線沿線へ広げていくための新たな活動を推進しています。2018年11月4日にプラーザホール by iTSCOMで開催された「次世代郊外まちづくりシンポジウム」では、これまでの活動を振り返るととともに、今後の展開を踏まえた郊外住宅地の未来についてみんなで考えました。

イベント名 「次世代郊外まちづくりシンポジウム 『田園都市で暮らす、働く』を考える」
開催 2018年11月4日(日)
場所 プラーザホール by iTSCOM
最寄駅

「都心が郊外化している」とは?

東京のベッドタウンとして発展してきた横浜市は、高度経済成長期から郊外住宅地の開発が一気に進み、今さまざまな問題が顕在化しています。住民の高齢化、施設の老朽化、ライフスタイルの変化による若い世代の郊外離れ……など。50年前に開発が始まった、たまプラーザ駅周辺も例外ではありません。

横浜市と東急電鉄は2012年4月、郊外住宅地を持続発展させていくための「次世代郊外まちづくり」に関する包括協定を締結。「たまプラーザ駅北側地区」をモデル地区に、産学公民の連携でさまざまな取り組みにチャレンジしてきました。

今回の「次世代まちづくりシンポジウム」のテーマは「田園都市で暮らす、働く」。郊外のまちづくりで「働く」というキーワードは新鮮です。これからの郊外住宅地の再生に向けては、働く場をつくり出すことが大事、と語るのは、キーノートスピーチで登壇したカルチャースタディーズ研究所の三浦展(あつし)氏です。三浦氏は、今までは「都心は男性」、「郊外は女性」というジェンダー(性)による役割の分離で成り立っていたと説明します。

「男性の働く場所は都心で、仕事終わりにそのまま飲みに行ける娯楽もある。対してこれまでの郊外は、女性が子育てと家事をする場所であり、子どもを遊ばせる公園が娯楽の場。かつての都心は、空気が悪くて交通事故も多く河川も汚れていたので、緑豊かで景色も美しい郊外が子育て環境として好まれた。しかし今は、多摩川にアユはやって来るし東京湾で海水浴の実験が行われるほど、都心の環境は改善されている。保育園もつくられ、働くお母さんにとっても便利な場所になっている。つまり『都心の郊外化』が進んできた」(三浦氏)

会場は、たまプラーザ駅直結の商業施設内にあるプラーザホール by iTSCOM。

三浦氏は、市区別の人口動態データを引用しながら、わかりやすく説明。

人口を伸ばすまちは、働く女性に選ばれるまち

出生数を見ると、例えば東京都中央区は1.43で、横浜市青葉区は1.33。「郊外は子育てのためにつくられたのに、今では逆転している。月島や勝どき、豊洲、芝浦などに息子さんや娘さんが引っ越したという方も、会場にいらっしゃるのでは?」と三浦氏は会場に問い掛け、さらに次のように話しました。

「今は、女性が暮らしやすくかつ働きやすい場所であることが、人口を伸ばし出生数も伸ばす条件であると言える。専業主婦で子育てに専念するほうが人口が増える、という従来の常識はもう当てはまらない」

郊外が従来の「ベッドタウン」に代わって持つべき柱は三つあると三浦氏は指摘します。その一つが「働く」。歩いて楽しいウォーカブルなまちであるだけでなく、これからは働いて楽しいワーカブルなまちへ。駅前のシェアオフィスで働いたり、子育て中は自宅でテレワークしたり、70歳、80歳になっても生き生きと働けるまち。二つ目は「夜の娯楽」。まちで働く人が増えれば、地元で軽くお酒を飲んだり、家事や育児の後に外でくつろいだりする人も増えてきます。

そして三つ目は、地域の中での「シェア」。子育て世代や定年退職者のスキルを、過去の思い出として埋もれさせず地域の中で生かしていく仕組みです。

三浦氏の数値データに裏付けされた郊外地の意外な傾向に聞き入る来場者。

参加者がシンポジウム開始前に綴った「田園都市で暮らす、働く」のイメージをまとめたパネル。

地域で「シェア」が人気の理由は?

三浦氏は、まちの資源を共有する「シェアタウン」についても紹介しました。「これからは高齢者が増え、働く女性も増える。昔のように男性が昼夜を問わず働く時代でもなくなる。一人で子育ても介護も仕事もする、あるいは年をとって病気を抱えながら働く。それぞれ制約をもって働くようになるため、みんなでケアをシェアしながら暮らしていけるまちが求められてくる」。

また、人気のある「シェアハウス」では六つの価値を提供していると三浦氏は分析します。それは、個性的なデザイン、エコノミー、コミュニティ、セキュリティ、仕事の機会、そしてダイバーシティ。「これから超高齢化し、ひとり暮らしも増えると、この六つの価値を欲しいと思う人が日本でどんどん増えていくだろう。ゆえに、行政や企業、あるいは市民自身がいかにこれらを提供していけるかが大事」(三浦氏)

シンポジウムの開始前、来場者は『田園都市で暮らす、働く』ことのイメージを付箋に書いてボードに貼りました。「緑豊かな環境」「健康で豊かな生活」といった暮らしに関するものから、「都心へのアクセスがいい」「クリエイティブな仕事ができる」といった仕事に関するもの、「食住遊が融合した働き方ができる」といったワークライフバランスのものまで、さまざまなイメージが挙げられています。開発から50年たった田園都市の今後が気になるという声は少数で、ほとんどは今の田園都市の暮らしに満足しているという声でした。さて、三浦氏が示した、過去との比較から見えてきた郊外の課題を、来場者はどのように受け止めたのでしょうか。

男性の参加が多く、地域で「働く」ことへの関心の高さがうかがえます。

このシンポジウムは聴講のみにあらず。後半のトークディスカッションは、各自のアイデアや思いを来場者で共有します。

地域コミュニティの活性化に向けた公民の取り組みも進む

人口動態や社会環境、ニーズの変化から、横浜市と東急電鉄の施策も転換期に入っています。シンポジウムの冒頭であいさつした横浜市副市長の平原敏英氏は「郊外が住むだけの場所というのは昔の話」と話し、また東急電鉄の都市創造本部本部長の髙橋俊之氏も「鉄道を利用して都心に通勤するという従来のまちづくりから、暮らす・働くを目指すまちづくりへ」と説明しました。

両者が連携して取り組む「次世代郊外まちづくり」では、歩いて暮らせる生活圏の中に暮らしに必要な機能を集約する「コミュニティ・リビング」を推進、2018年10月にコミュニティカフェや保育、コワーキングスペース、広場などを併せ持つ地域利便施設「CO-NIWA(コニワ)たまプラーザ」を集合住宅と一体的に開発して、地域コミュニティの活性化に取り組んでいます。

また本シンポジウムに先駆け、横浜市と東急電鉄は「田園都市で暮らす、働く」をテーマに勉強会や視察を実施。シェアキッチンや女性のキャリア支援、団地を活用した小規模多機能型居宅介護など、「暮らす」と「働く」が緩やかに融合した地域活動や公民連携プロジェクトの事例が紹介されました。

報告を担当した東急電鉄の坂井田麻子氏は「たまプラーザでも緩やかな融合の兆しは感じられる。CO-NIWAや、会員制サテライトシェアオフィスNewWork、共創スペースWISE Living Labの活用が進み、住民創発プロジェクトやサポート企画も多数生まれている。たまプラーザには自分のやりたいことを実現する人々が集まっており、新しい暮らし方が実現できるのでは。豊かな暮らしをたまプラーザから沿線へ広げていきたい」と期待と使命感を語っていました。

会場内には、地域住民による「まちづくり活動」や、来年開始する「地域交通」の社会実験を紹介するコーナーも。

トークディスカッションに先立ち、入場時に皆さんが記した「田園都市で暮らす、働く」の第一印象を紹介。

みんなで考えるこれからの田園都市は?

シンポジウムの後半は、東京大学まちづくり研究室教授の小泉秀樹氏のナビゲーションによるトークディスカッションが行われました。来場者は最初、次の五つから自分が関心のあるテーマを選びます。

①自宅の近くで安心して働ける
②自分のやりたいコトをカタチにする
③シェアを楽しみながら自分の時間をつくる
④地域のためのコト・モノ・サービスを生み出す
⑤夜も楽しめる暮らしをつくる

そして、「ここがいいね!共感したポイント」「こんなアイデアがあります!」「もうこんなことをやっているよ!」「その他(課題など)」について付箋に書いていきます。
書き終わったところで大移動。皆さん、自分の関心のあるテーマの模造紙が貼られたボードへと散っていき、さっそく議論が始まりました。

①自宅の近くで安心して働ける
このグループは男性が多めの印象です。「ワークスペースにおいしいコーヒーを」「夜はちょっと飲めるとうれしい」「地域や世代間の交流にもなれば」など、ワークスペースに付加価値を求める声も多かったようです。女性からも「近くで働ければちょっとした用事があるときに家に帰れて便利」という声が上がり、子育てしながら働ける環境が求められました。地元だからこそのカジュアルなワークスペース活用は、ニーズがありそうです。

②自分のやりたいコトをカタチにする
やりたいコトがはっきりしているのは、定年退職後のシニアが多いのかもしれません。このグループには「定年後に小学生向けに理科教室をやっていた」という男性がいました。地域で活躍できる場さえあれば、スキルを発揮してくれるシニアはたくさんいます。そういう人材を地域へ呼び込むため、男性がコミュニティに入る仕掛けや、背中を押してくれる仲間、マッチングサービスなどについて、掘り下げた話し合いが展開されていました。

③シェアを楽しみながら自分の時間をつくる
このグループは女性の関心が高く、シェアキッチン事例に多くの共感が生まれていました。皆さん、自宅を開放するような大きなシェアよりも、キッチンだけ、あるいはみんなで使える公共施設を使ったり、顔見知りだけでスタートしたり、少しずつ広げていきたいようです。楽しいことのシェア、得意・不得意のシェア、モノだけでなく体力のシェアなど、アイデアも次々と生まれていました。

④地域のためのコト・モノ・サービスを生み出す
ここでは、例えば音楽や絵といった、その人の得意なコトを一つのテーマで示した小さなコミュニティを立ち上げるなど、コト・モノ・サービスを生み出すためにどういう場をつくるべきかの議論が活発でした。また、小さなコミュニティを丁寧につくる一方、組織や世代を超えたダイナミックなまちづくりが必要との声も。コミュニティファンドのように、地域でお金を回すことで課題解決を図るアイデアも出ました。多くの皆さんが田園都市の未来に可能性を感じ、期待を込めて発言したのが印象的でした。

⑤夜も楽しめる暮らしをつくる
このグループは、たまプラーザで地域活動に取り組んでいる方々が中心となって議論が展開され、「料理好きを集めたオヤジ版スナック」や「シニア宅への訪問型押し掛け居酒屋パーティー」を持ち回りで行うなど、多くの人を巻き込むアイデアで盛り上がりました。加えて、安心してお酒が飲めるように子どもを周りの人に見てもらったり、夜間の娯楽に活用できるモビリティを普及させたりといった、必要なサービスについても話し合われていました。

三浦氏のキーノートスピーチに共感したポイントなどを、各テーマのファシリテーターがボードに貼っていきます。

三浦氏が紹介したママのスナックに共感して「料理好きを集めたオヤジ版スナック」のアイデアが登場しました。

「都心のコワーキングは若い人が多くて」と、地域ならではの多世代が利用するコワーキングスペースに期待する声も。

「みんなの『やりたい』を引き出す、ちょっとした仕掛けが欲しい!」

たくさんの可能性を花開かせるために

次世代郊外まちづくりの当初からアドバイザーとして関わってきたナビゲーターの小泉氏は、各グループの話し合いを聞いて、「田園都市は魅力があって可能性のある街。もっともっと花開いていいと思う。それぞれのまちにコーディネーター的な方が何名もいて、さまざまな活動が育まれているが、今後は若い人も取り込みながら次世代の中からもコーディネーターが生まれるようになれば」と期待を寄せました。

また、次世代郊外まちづくりからは、2019年1月下旬から日本初の「郊外型MaaS(Mobility as a Service)実証実験」を開始するというニュースも紹介されました。坂道の多いモデル地区で行われるこの実証実験の対象となるサービスは次の4つ。モニターは地域住民から募ります。

①都心への快適な通勤サービス「ハイグレード通勤バス」
②AIを活用した地域内移動サービス「オンデマンドバス」
③気軽に街を回遊できる移動サービス「パーソナルモビリティ」
④マンション内の貸し出しサービス「カーシェアリング」

この実験は、単に移動手段を提供するだけでなく、リビングラボの手法も取り入れ、子育て中の方々や高齢者の外出機会の創出、および新たなコミュニティ形成の促進を目指すものでもあります。

経験豊富な世代や子育て中の方々がまちの中で生き生きと働き、活動し、そこに若い人のアイデアと行動力が加わることで、今までにない郊外地の魅力が生まれそうです。住みたいまちを、住み続けられるまちに──。
新たな共創のステージに挑戦しようとしています。

来場者が自分ゴトとして意見やアイデアを出し合い、共有するトークディスカッションを展開した小泉氏。

文:柏木由美子(スパイスアップ編集部) 写真:木村雅章

更新:2018年12月19日 取材:2018年11月4日

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