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小さな森から大きな森へ! 地域に広がる緑の輪

街×人 インタビュー 一般財団法人世田谷トラストまちづくり「小さな森」担当 高橋 誠さん 丸山 理恵子さん

緑豊かな環境が多く残る世田谷区ですが、緑の約6割は個人や企業が所有する庭などの民有地。地域に潤いを与えてくれる貴重な緑を守るため、「一般財団法人世田谷トラストまちづくり」では、個人の庭を登録する財団独自の制度「小さな森」を制定。登録された庭を、所有者とボランティアの皆さんでオープンガーデンとして開放し、そこで緑の大切さを啓発する活動をしています。その活動を担当するお二人に、緑を通じた地域の人々の交流の様子や小さな森活動のこれからについて伺いました。

  • 丸山 理恵子さん
  • 高橋 誠さん

プロフィール写真

まるやまりえこ
「緑の専門家ではないので、担当であっても知らないことばかり」と謙遜する丸山さんは、オープンガーデン来場者、オーナー、ボランティアの三者をつなぐ橋渡し役としてなくてはならない存在。世田谷に緑の輪が広がっていくことが目標。
たかはしまこと
財団トラスト事業担当係長。世田谷区に残る貴重な近代建築物の調査・保全活動にも関わり、古建築のことであればいくらでも話せるのだとか。自宅のベランダにはフジの花の鉢植えと、ケヤキの盆栽があるという“グリーンマニア”な一面も。

個人の庭を小さな森に、小さな森がつながれば大きな森に

花の好きなオーナーらしい、色とりどりの花にあふれたオープンガーデン。
高木が多く木に包み込まれているような庭は、まるで自然の野山のよう。
ウメ、カエデ、ツツジなどがバランス良く配置され、草花とも調和した和風の庭。

――そもそも「小さな森」の取り組みとはどんなもので、どのようにして始まったのでしょうか?

高橋 都市緑地法のなかに、都市に残された緑地の保全や緑化を推進する「市民緑地制度」というものがあります。300平方メートル以上の広さを持つひとかたまりの緑地を、常時公開の市民緑地として契約することで「世田谷トラストまちづくり」が維持管理を行っています。土地の所有者には税制面での優遇もありますが、条件となる面積が300平方メートル以上とちょっとハードルが高く、なかなか増えないという状況がありました。そこで、税制面での優遇はありませんが、もう少し参加しやすい財団独自の制度として、個人の庭を対象にした「小さな森」の制度を2005年にスタートしました。

――個人の庭と言ってもさまざまだと思いますが、どのような庭が「小さな森」に登録できるのですか?

丸山 緑に対する考え方は人それぞれで、樹木のお庭が好きな人もいれば、雑草さえも愛おしいと育てている人もいます。こんなお庭じゃなきゃダメ、というのはないんです。50平方メートル以上の面積で、公道から通路が確保でき、緑を守ろうという思いを持ち、オープンガーデンにご協力いただける方のお庭ならどこでも登録ができます。皆さん維持管理については苦労されている部分もありますが、そんな苦労も含めて集まった人たちで共有できたらいいね、ということで活動を進めています。

――現在、登録されているオーナーの皆さんは、どういったきっかけで「小さな森」を始められたのでしょうか?

丸山 きっかけはそれぞれですね。「世田谷トラストまちづくり」では「地域共生のいえ」という、私有の建物をまちづくり活動の場として役立てるための取り組みがあります。先に「地域共生のいえ」に参加され、そこで「小さな森」を知った方や、「地域共生のいえ」に興味はあるけれど、まずは「小さな森」としてお庭を開いてみようという方、自分のお庭が地域の役に立つならという方、おしゃべりが好きで地域の人と交流したいという方など、思いはいろいろです。

高橋 登録オーナーの皆さんは、ことさら気負うこともなく、自分にできることでと自然体で楽しんでいらっしゃる方ばかりです。登録の庭が少なかった時は来場者も少なかったのですが、登録の庭が増えオープンガーデンの回数が増えると、今度は参加した方が、じゃあ自分もやってみよう、と登録される方が増えていきました。

緑の輪を広げる、「小さな森」のオープンガーデン

「グランダ上野毛小さな森」のシンボルツリー、ハナモモの木。
オープンガーデンの前には、必要ならば園路確保のために枝の剪定(せんてい)をしたり、雑草を抜いたりします。
草花のイラストを展示し、来場者に楽しんでいただこうというオーナー自らの工夫も。

――現在、「小さな森」はいくつあるのでしょうか?

丸山 現在は、14カ所が登録されています。「小さな森」と呼んでいますが、実際には個人のお庭なので、それほど大きいわけではありません。
それが1カ所だけなら街の中の小さな点ですが、点が増えていくことで線になり、やがて面になることで街全体が“大きな森”になっていく……。そんな願いを込めて、「小さな森」と名付けたのです。

高橋 昨年は「小さな森」が4カ所増えました。そのうち2カ所は企業の民有地です。それまでは個人の庭だけだったのですが、小田急線・成城学園前駅の駅ビル「成城コルティ」の屋上庭園や、有料老人ホーム「グランダ上野毛」の庭など、企業の民有地も仲間入りしました。

丸山 「グランダ上野毛」のお庭には、シンボルツリーの大きなハナモモの木があり、とってもすてきなんです。以前よりそばを通る近隣の方から「あの花なんですか?」と尋ねられることが多かったそうなんです。でもなかなか中に入っていただく機会がない。そんな時に「小さな森」制度を知り、ぜひオープンガーデンを開きたいと言ってくださって。

――オープンガーデンは、どのような内容なのでしょうか?

丸山 そんな大げさなことをするわけではないんですよ。「小さな森ボランティア」の方にご協力いただき、まず集まって来場者を迎える準備をし、開始時間には受け付けをします。途中には、グリーンアドバイザーによる「ミニガイド」の時間もあります。内容はその時々で、草花の話だったり生き物の話だったりといろいろ。その後は、縁側のあるお庭であれば座っておしゃべりしたり、来場者に自由に過ごしていただきます。オーナーの方によっては、花の苗が余ったから来ていただいた方に配りたいと言っていただくこともあり、皆さんそれぞれのやり方でオープンガーデンを楽しんでいらっしゃいます。

――オープンガーデンに行きたい場合にはどうすればいいのですか?

丸山 区報での告知や、「世田谷トラストまちづくり」のホームページでお知らせしています。電話やFAX、ハガキで申し込んでいただき、希望者が多い場合は、抽選で参加していただく方を決めています。防犯上の問題もありますので、住所については参加いただく方に個別にお知らせし、オープンガーデンの当日、お庭に直接、集まっていただきます。

――オーナーの思いもいろいろ、庭の形もいろいろ。全部回ってみたら面白そうですね。

丸山 オープンガーデンの来場者にはリピーターも多く、全部制覇したいという方もいらっしゃいますよ。私たちの思いとしては単に都会にある緑という存在で終わりにせず、そこからのつながりを、より大切にしたいと考えています。緑があるからそこに鳥たちも来るし、虫も来る……。自然のサイクルでつながっている生物多様性の環境がある、ということまで感じてほしいですね。グリーンアドバイザーによる「ミニガイド」でも、植物の話だけではなく、生物の多様性などいろいろな角度から話していただくようにしています。「小さな森」にはオーナーの皆さんがまだ小さかったころのお庭の思い出や、木や花の苗を植えた時の情景とか、たくさんの思いがいっぱい詰まっています。そんな思いに来場者が共感することで、地域に対しても愛着を持っていただけるような、立体的なコミュニケーションにつながればいいなと思っています。

地域の緑がつなぐコミュニケーションの場

オーナーと来場者の交流は、オープンガーデンの楽しみの一つ。
国分寺崖線の斜面がそのまま庭になっている小さな森。湧き水によってできた池があり、サワガニや昆虫類などが多く生息する貴重な場所になっています。
自宅の緑まではなかなか手が回らないと笑うお二人。

――「小さな森」が街にあると、地域の雰囲気も変えてしまいそうですね。

丸山 そうなんです。お庭にきれいな緑や花があるだけで自然に会話が生まれ、みんなが仲良くなるみたい。オープンガーデンは、緑がつなぐ交流の場なんです。花や緑には心が癒やされたり、人を笑顔にするパワーがあると思うので、その輪も広がっていくとすてきですね。

――「小さな森」担当としてどんなところにやりがいを感じていますか?

丸山 本当に地道な活動なんですが、オープンガーデンに参加いただいた方にはとても喜んでいただけているようなので、それだけでうれしいですね。少し前の話ですが、キルト作りを趣味にされているオーナーの方がいらして、オープンガーデンの場でキルトを作って3.11の被災地に送りたいと協力者を募ったら、何人か申し出がありました。オープンガーデンから人の輪が広がっていく様子を目の前で見た時には、「小さな森」の活動をやっていて良かったと思いました。

――逆に「小さな森」活動の難しさはなんでしょう?

丸山 「小さな森」活動の思いの基本は、住民の一人一人が身近な1鉢の花や1本の木を慈しみ、守り育てるようになってほしいということ。「小さな森」のオープンガーデンに参加した後、何かのアクションにつなげてほしいなと思うのですが、そんな私たちの思いが来場者に伝わっているのかどうかが見えにくいんですよね。

高橋 その代わりではないですが、私たちの活動についてご賛同いただいた方には、世田谷の自然や環境を守るサポーターとして「トラスト会員」になっていただくようお願いしています。オープンガーデンの時に会員になっていただける方はとても多く、私たちの活動の思いは確実に伝わっているんだ、と感じています。

個人の家の「庭」が街の緑を支える、世田谷の街の魅力とは

ウメの花が咲き始めた庭で、季節の移り変わりを肌で感じる来場者。四季を感じにくくなっている都市では、貴重なひとときです。
「オープンガーデンは、この看板を目印にいらしてください」と丸山さん。

――「小さな森」を点から線、面へ広げていくためには、あと何カ所! といった目標はあるのですか?

高橋 毎年1カ所ずつは増やしたいと思っていますが、でもそうなると、支えるスタッフやボランティアの数の問題は避けられない。今は14カ所なので職員が立ち会うこともできています。これが倍の30カ所になった時、同じことができるかというと難しいのが現状です。そういった課題を、「小さな森」を増やすことと一緒に考えていく必要があります。オーナーの方の自主開催という方向や、地域で活動している団体に声を掛け、コラボできる仕組みづくりなどが必要になってくるのだと思います。

――今後の具体的な展開はありますか?

丸山 以前は個人のお庭が主体でしたが、今後は企業やお店などにも幅広く登録を呼びかけていこうと思っています。今度、都市と里山の緑をつなぐ活動をしている団体の方をお呼びして、その活動をお話いただく「里山BONSASI づくり」ワークショップを開催します。そういう都市の緑を見つめ直す講習会とか、近隣の小さな森や市民緑地などを巡る「まちなかツアー」など、新しい企画を進めていきたいと思っています。

高橋 「小さな森」の庭にはそれぞれに特徴がありますので、オーナーの方から何かやりたいというお話があれば、積極的にサポートしたいですし、地域の人たちと連携して何かできればと思います。

――オーナーそれぞれの思いを酌んで、とても丁寧に取り組まれているのですね。「小さな森」がある世田谷の街の魅力ってなんでしょう?

丸山 ありがとうございます。「小さな森」の活動に携わってくださる皆さんは、人柄も良い方ばかりです。これ以外にも財団ではさまざまな活動をしていますが、皆さん、公に任すのではなく、ご自身にできることからコツコツ取り組まれていて……。それが義務というのとは違って自然体で、生き物も人も共存できる緑豊かな環境を守ろうとしていらっしゃいます。このような皆さんの思いがあふれる世田谷の街は、まさに魅力的だなと思います。

高橋 世田谷区は高級住宅地というイメージがあり都心と思われがちですが、実は自然が豊かな場所。23区の中でゲンジボタルが生息する場所が2カ所あるんですが、その一つが世田谷です。オオタカも営巣していますし、自然観察に奥多摩まで行かなくたってすぐ近くにそういう環境がある。都会的ないいところと自然をバランス良く持った街なんですよね。私は古い建物の保全活動にも関わっていますが、人知れず著名な建築家が設計した建物も数多くあり、個人的にもいろんな視点で楽しめます。生き物との共存というと難しそうですが、実は誰でも始められることなんです。世田谷区はそんな思いも発信しやすい街。「小さな森」の活動に参加する方が増えていくといいなと思います。

更新:2016年5月31日 取材:2016年4月

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