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東急電鉄

「みんなで食べよ」子ども食堂から広がる居場所づくり

“食”で地域の人々をつなぐ

子どもが一人でも利用でき、地域の方たちが無料あるいは少額で食事を提供する「子ども食堂」。運営の多くはボランティアや寄付によって支えられ、その数は全国ですでに300カ所を超えるとも言われています。孤食や子どもの貧困、さらには関係性の貧困がメディアで多く取り上げられる中、そうした課題を“自分ゴト”として捉え、地域で「食」を通した居場所づくりに取り組む人が増えています。

「この子を、この人を、放っておけないから」

「あさやけ子ども食堂」を運営している栗林知絵子さん。地域の子どもたちからは「くりばあ」と呼ばれ親しまれています(トークイベント「食堂のチカラ」にて)。
「あさやけ子ども食堂」は、「家で1人で食べるより、みんなでワイワイ食べよう」をモットーに2013年3月オープン。店主「山田じいじ」の自宅兼パン屋を改装した一軒家です。

2016年7月10日、食を中心とした“人が集まる場”の可能性について語り合うトークイベント「食堂のチカラ」(主催:NPO法人フォーラムアソシエ)が新横浜で開催されました。来場者のおよそ4分の3は「地域で食堂をすでに開いている・これから開きたい・活動に参加したい」方々。現在、食を中心とした場づくりに取り組んでいるゲストスピーカーの話を熱心に聞いていました。

ゲストスピーカーの一人である栗林知絵子さんが理事長を務めている「NPO法人豊島WAKUWAKUネットワーク」は、2013年3月から月に2回、地域で「あさやけ子ども食堂」を開いています。「法人名に“豊島”と入るくらい、私たちは地域の子どもの活動しかしていません」と栗林さん。子ども食堂の他にも、プレーパークや無料学習支援、夜の児童館など、さまざまな“子どもの居場所”をつくっています。

子ども食堂を開くきっかけは、「池袋本町プレーパークの会」に遊びに来ていた、ある男の子でした。中学3年生になった彼が、偶然スーパーで会った栗林さんに「高校に行けない。先生に無理って言われた」と打ち明けたのです。ご自身を“おせっかいおばさん”と言う栗林さんは、さっそく仲間と一緒に彼の受験サポートを始めます。彼の母親はシングルマザー。ダブルワークで一生懸命働く日々です。母親から500円もらって好きなものを好きなときに食べるのが当たり前だった彼は最初、栗林さん宅で家族そろって食事をとる光景を見て「気持ち悪い」と言ったそうです。

そんな彼の他にも、栗林さんが放っておけない人が地域にいました。天然酵母のパン屋を営んでいたお宅がご主人だけの独居になり、「ご飯を食べる気がしない」「新聞を見る気すらしない」と話すようになっていたのです。しかしそのご主人が子ども食堂に関心を持ち、栗林さんに「自宅でやりたい」と言ったことから、子ども100円、同伴者300円で地域のみんながわいわいがやがやご飯を食べられる「あさやけ子ども食堂」が誕生しました。

「家でごはんを食べられないなら、うちの店においで」

気まぐれ八百屋「だんだん」の店主・近藤博子さん。もともと居酒屋だったところを八百屋にしたこともあり、店内には調理設備やテーブルスペースがあります。
きまぐれ八百屋「だんだん」の軒先には、地域の人たちが開催するイベントのお知らせがずらり。

現在全国に広まった「子ども食堂」の名付け親は、青果店「気まぐれ八百屋だんだん(池上線 蓮沼)」の近藤博子さんです。ある時近藤さんは近所の小学校の副校長先生から、母親が病気のために夕食をきちんととれない子どもがいると聞きます。しかし「野菜やお米ならうちの店にある。ここ食べに来てもらえばいい」と思い試行錯誤を続けているうちに、その子が児童養護施設に引き取られたと知り、とてもいたたまれない気持ちになったそうです。そのことがきっかけとなり、「きっと同じような子どもが他にもいるはずだ」と、2012年8月に「だんだん」の子ども食堂が始まりました。

「子どもたちに生きる知恵を身につけてもらいたい」という思いもあって、近藤さんは店に来る子どもたちとの会話の中で調理法を伝えています。「お米さえあればご飯になる。道具が限られていても、いろんな作り方を知っていればあるものでなんとかできる。お菓子などで簡単に済ませるのではなく、“ご飯を作ろう”と思ってほしい」。

近藤さんは、「子どもだけで安心して来られて、食事のとれる場所」という意味を込めて「子ども食堂」と名付けたそうです。先日、小学3年生の女の子たちが“おしゃれ”をして「だんだん」にやってきました。近藤さんが尋ねると、そのうちの一人が誕生日で、お祝いの食事会にやってきたとのこと。そんなことをかなえてくれる場が「だんだん」です。

「だんだん」は子どもが安心して行ける場所ですが、そこで会うのは子どもだけではありません。以前から「何かやりたい」と思う人が集まる場だった「だんだん」では、子ども食堂のない日も「ワンコイン寺子屋」「読み聞かせの会」「手話カフェ」などのイベントが開催され、子どもからお年寄りまで、学生から仕事帰りの会社員まで、地域のいろいろな人がやってくる多世代交流が自然と行なわれています。

助けを必要とする子どもや大人が見えにくいからこそ

「港北区に子ども食堂を作る会」主催のイベントで話をする「だんだん」の近藤博子さん。子ども食堂を開きたい地域の皆さんを中心に40人ほどが集まりました。
「食堂のチカラ」でコーディネーターを務めた「子どもの未来サポートオフィス」代表の米田佐知子さん。経済的な貧困だけでなく、家族や地域における関係性の貧困にも注目しています。

近藤さんや栗林さんをはじめとした子ども食堂の取り組みが広く報道され、「地域にもそういう子どもがいるなら私も何かしたい」と思う人々が各地で子ども食堂をオープンさせています。子ども食堂を開きたい人を対象としたセミナーも盛んに行なわれています。2016年6月には「港北区に子ども食堂を作る会」主催で、「だんだん」の近藤さんをゲストに招いた勉強会が開催されました。

「子どもの食事は親の責任」という考えもありますが、子育てしながら働くことが難しい社会的な背景も絡み、問題は複雑化しています。どうしても行政の支援からもれてしまう家庭もあります。近藤さんは「子どもの後ろにいる保護者の雇用など、その子を取り巻く状況を理解することも必要です。そしてまずは始めてみて欲しい。一人でも救われるなら子ども食堂をやる意義があると思います」と来場者に話しました。

横浜こども食堂ネットワーク準備会」のメンバーの一人として、「子ども食堂をやりたい」「場所を提供したい」「食材を寄付したい」などの個別の相談対応や、市内の子ども食堂の情報交換支援を行なっている米田佐知子さん(子どもの未来サポートオフィス)は、子ども食堂について次のように語ります。

「実際のところ、なかなか支援したい人につながらない、というジレンマを持って活動している子ども食堂は少なくありません。ファストファッションが普及して流行の衣服が安価に買え、ケータイが必需品の現代は、一見すると貧困に陥っていることが分からない。子どもだって自分の弱みを初対面の他人にすぐに見せようとはしません。けれども、会う回数を重ねるうちに子どもが“この人なら分かってくれる”と感じて打ち明けて初めて、支援する側が“この子が、支援が必要な子だったんだ”と認識できる。ですから間口を大きくしてオープンにすることは、大事なことだと思います」

食を通じた“地域の食堂”としての広がり

「スペースナナ」は、ギャラリー、スタジオ、フェアトレードショップを併設したコミュニティカフェ。ナナ食堂の日は、入り口の大きなのれんが目印です。
スペースナナで開催している「ナナ食堂」の風景。ボランティアの皆さんが作った料理を囲み、初めての人同士も和やかに時間が過ぎていきます。
「駒岡 丘の上こども食堂」の開催はこの看板が目印。トールペイントの先生に描いてもらったもので、なんとボードは古くなった碁盤とまな板を再利用。
「せたがやこども食堂・みっと」には学生ボランティアも参加。子どもたちとも顔なじみで会話も弾みます。
「おるた家族食堂」では、生活クラブ神奈川のオルタナティブ生活館の調理室を使ってみんなで調理します。小わざを学んで喜ぶ主婦の皆さんも。

子ども食堂は、子どもだけでも来られる小地域の場づくりなので、地域の特性に合わせ、それぞれ違ってきます。食堂をつくるなら「ノウハウを求めるよりも、まずは地域を見つめたい」と米田さんは言います。

「子ども食堂というパッケージだけを地域へ持ってきてもうまくいかないと思うんです。まずは、地域の子どもが集まるところへ出かけ、子どもの状況に合わせて考える。加えて、地域に孤食の高齢者が多いなら、高齢者も来られる場にするなど、どういった場所を使うか、担い手や食材をどう募るか、と利用者を想定して形態と運営を決めていくことが大切です」

地域を見つめる人々によって今、子ども食堂は“地域の食堂”としても多様な広がりを見せています。

生きづらさを抱えるあらゆる人に(ナナ食堂

コミュニティカフェを運営する「NPO法人スペースナナ」は、自主事業の連続講座「地域でゆるやかに支え合う場をつくろう」で栗林さんをゲストスピーカーに迎えたことがきっかけで、2015年2月に「ナナ食堂(田園都市線 あざみ野)」をスタートしました。「世代を超え、性別、国籍、障がいに関係なく誰もが安心して立ち寄れる場」を目指しているスペースナナでは「あえて“子ども”を名乗らなかった」と、同法人の柴田暁子さんは言います。実際、参加者は大人のほうが多いそうです。

月2回のうち、昼間に開催される第4土曜日は「カレーの日」。併設のフェアトレードショップで取り扱っているカレーや香辛料を使い、毎回アレンジを凝らしたカレーを提供します。ボランティアを中心とする作り手の皆さんも、食べに来た人と一緒にテーブルで食べます。障がいをもつお子さんとよく参加する方は、「子どもは外に出たがらなかったのに、最近様子が変わってきた」と、ナナ食堂に来られることを喜んでいます。

地区センターの利を生かして(駒岡 丘の上こども食堂

地区センターの自主事業として2016年4月から始まった「駒岡 丘の上こども食堂」は、横浜市駒岡地区センター(東横線 綱島)内の調理室とホールを利用して月に2回、予約制(当日の飛び込み分も数食用意)で提供しています。当日の調理や子どもたちの自宅への送り届けはボランティアの皆さん。ネットで検索して存在を知り、遠くからやってくる人も多いそうです。

前日の準備や食材の調整、およびその他の管理全般は、本事業を立ち上げた館長の七田直樹さんが担当。お米をたくさん寄付いただいたときは「こども食堂ネットワーク」のメーリングリストを通じて他の子ども食堂に提供しています。おけいこ事の終わりに立ち寄る親子や、一人暮らしのお年寄りらも集まって、用意できる50食は毎回ほぼなくなります。中には、両親が共働きで、地区センターで勉強をして帰る子どももいるそうです。秋からは子ども食堂の開催日に合わせ、大学生ボランティアらの協力による学習支援もスタート予定です。

普段の“顔の見える関係”を強みに(せたがやこども食堂・みっと

「せたがやこども食堂・みっと」は、地域活動を通じて知り合った女性6人で2015年11月にスタートしました。世田谷線に面し、車窓からもよく見えるコミュニティカフェ「シーマシーマ(世田谷線 松原)」で月に2回、小学生を中心に食事を提供しています。メンバーの井上文さんは、「スタッフはこの地域で自らが育ち、子どもを育て、親をみとってきた人たち。みんな地域でいろいろな活動をしているので“顔の見える関係”がつくりやすかった。子どもたちとも、商店街で声を掛けたりして“みっと”の外でもつながっています」と話します。

「みっと」には地域の皆さんの他にも、日本大学文理学部社会福祉学科の学生をはじめ、高校生や大学生もやってきます。子どもたちは、近くの集会所で勉強を見てもらったり、食事の後にカードゲーム「UNO」を一緒に楽しんだりと、学生のお兄さん、お姉さんに会えるのも楽しそうです。

“もう一つの家族体験”の場として(おるた家族食堂

「生活クラブ神奈川」を母体とする「NPO法人フォーラムアソシエ」は、血縁とは異なるもう一つの(オルタナティブな)家族体験の場として、会員制の「おるた家族食堂(JR横浜線 新横浜)」を2016年7月からスタート。“家庭料理をみんなで作ってみんなで食べる”多世代交流の場を月に2回、設けています。

ビジネス街ながらマンションが次々と建設され、最近は若い世代の一人暮らしや小家族の転入が進む新横浜。子どもを遊ばせる場を探している母親も多いそうです。「おるた家族食堂」では、母親が子ども連れでやってきたり、仕事終わりの会社員が駆け込んだりして、料理の上手な人に教わりながらみんなで一緒に作り、大きな和室で一緒に食べ、食後はおしゃべりを楽しんだりゲームで盛り上がったりして時間を共に過ごします。作るところから始めるのは、お父さんや子どももご飯が作れるようになれば、お母さんがご飯を作れない日でも夕食を用意できる――女性の社会進出をご飯作りで支援したいという思いがあるからです。

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以上の他にも、食を通じた地域の居場所づくりが私たちの身近なところで起こっています。

地域の人々をつなぎ直す存在に

「だんだん」のある日のメニュー。だんだんで取り扱う無農薬野菜がふんだんに使われています。

地域の食堂を始めた皆さんの多くは、小さいころに家族や地域でご飯を食べたという実体験を持ち、大人になってつらいことがあっても当時を思い出すともう少し頑張れる、そんなことを重ねてきた世代です。「誰かとご飯を食べて、おいしかったと思って帰っていってくれればいい」「ここでおいしいものを作って待っているから、また顔を見せてよ」と皆さん言い、「支援する側とされる側」「大人と子ども」「支援が必要な人と必要でない人」の境界もありません。

「子どもたちが地域をつなぎ直してくれているのかなと思う」トークイベントでの栗林さんの言葉も印象的です。地域の食堂を通じて人々が連携し、それぞれの立場を超えた新しいつながりができつつあります。一つの食堂は、多くが月に1回か2回の開催ですが、食堂数の増加によって地域全体で支え合えれば、その先には近藤さんが夢と語る「子ども食堂のいらない社会」が見えてくるのではと思います。

更新:2016年9月7日 取材:2016年6月~8月

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