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東急電鉄

地域に開く農と古民家 澁谷直子さん

地産地消にまつわる人々 VOL.11

みずみずしい野菜や果物を作り続けている人たちがいて、その恵みを私たちのもとへと届けてくれる人たちがいる――。東急沿線で地産地消に取り組む、さまざまな人たちを紹介します。

仕掛け人
澁谷 直子しぶやなおこさん

農業経験もないままに17年前に農家に嫁いできた澁谷直子さん。義父を手伝いながら農業に携わってきましたが、近所に住むイタリア食文化研究家と知り合ったことをきっかけに、イタリア料理人たちの評判となります。その一方で、築100年を超える建物をリノベーションして再生。地域に開かれたスペースとして、農家でなければできないような、芋掘りやタケノコ掘り、流しそうめんなど楽しくておいしい四季折々のイベントを開催し、地域と一緒に成長する場づくりに力を注いでいます。

築100年とも200年ともいわれる古い建物を改築して「母家」と名付けた場所で、農体験や料理教室など多彩なイベントや教室を開催する澁谷さん。大人も子どもも一緒に成長でき、次世代へと引き継ぐ場所に育てることに夢を膨らませています。

イタリア料理界のシェフたちもファンになるイタリア野菜農家

「これがUFOズッキーニでこっちの黄色いのはコリンキー」。どちらもカボチャの仲間。UFOズッキーニは本当にUFOのような形です。
畑の周囲を住宅が取り囲む、典型的な都市部の農家です。

――イタリア野菜を始められたきっかけを教えてください。

生まれ育った家は千葉県の文房具屋。ここに嫁ぐまで農業の経験はなかったので、ここに来て義父の手伝いをしながら初めて農業に携わることになりました。イタリア野菜を作り始めたのは、近所に住むイタリア食文化研究家の方と知り合ったことがきっかけです。こんなもの植えてみて、って頼まれてやっていたら、その方のつながりでいろんなイタリア料理人の方がいらっしゃるようになり、そこから毎年、リクエストに応じているうちに種類が少しずつ増え、いまは年間50種類くらいの季節の野菜とイタリア野菜を生産しています。

――澁谷農園さんの野菜はどこで買うことができるのですか?

畑の直売所とJAが運営しているセレサモスという農産物直売所が中心で、ほかには頼まれた時にイベントのマルシェに出したりもします。イタリア料理のシェフたちは直接買いに来ることも多いです。近所に住むイタリア食文化研究家の方が、イタリア料理界では有名な方で、都心の有名なシェフも一緒にいらっしゃったり。ご自分で畑に入って、楽しそうに野菜を摘んでいますよ。

――どんなイタリア野菜が人気があるのですか?

評判がいいのは、普通には売っていないもの。フェンネルのタネなんかは香りが強いって喜ばれます。最近だと黒キャベツかなあ。カーボロネロというのですが、日本のキャベツのようには結球しない冬のイタリア野菜です。珍しすぎて一般の方が購入することはないのですが、そういうものがあると料理人の横のつながりで「あそこにあるぞ」という話になって広まるらしいです。

農家ならではの旬のイベントを開催

畑の前の坂道を上がると現れる「母家」。昔ながらの農家の雰囲気を残してリノベーションされ、内部は土間、太い梁(はり)、しっくい風の壁など懐かしさがいっぱいです。
「農園キッズ」の参加者たち。「母家」で準備をしてから、みんなでそろって農園へ。
この日はシシトウ。大きいのを探してハサミで上手に収穫していきます。

――野菜を作るだけでなく、子どもたちを対象にした農園体験イベントも開催していると聞きました。

以前には近所の付き合いもそんなになかったんですが、自分に子どもが生まれてからですね。地域のお母さんたちとのつながりが多くなり、あるお母さんから子どもに何か農園体験をさせたいと言われて。そんなことやって面白いのかなあと半信半疑だったのですが、じゃあ、サツマイモ掘りでもやろうか、ということになりました。やってみたらみんなに楽しんでもらえたのがうれしくて。それから「ほらブロッコリーってこんなふうになるんだよ」といった、お店で買うだけではわからないようなことを教える「農園キッズ」というイベントを始めました。最初は月に1度でしたがそれだと収穫だけになってつまらないので、今年からは月に3回にし、そのうち1回は創作教室で、あとの2回を農園体験にしています。創作教室は、あそんで、まなんで、めをのばす教室という意味の“あそまめ”という名で、姉が講師をしています。

――「農園キッズ」以外にもいろんなイベントを開催されていますが、「母家」はそのためにつくった場所なのですか?

「母家」と名付けたこの家は、私が嫁いできた17年前にはまだ義父母が住み暮らしていた家です。キッチンの部分だけはリフォームされていましたが、それでも100年を確実に超え、家全体がさすがに古くなっていたので、一時は建て替えることも考えました。でも義父が残したいと言っていたし、私もこんなすごい家を無くしちゃうのはもったいない、次の世代に引き継ぎたいと思っていました。「農園キッズ」で流しそうめんとか餅つきイベントをやっている中でも、こういう場所が必要だなあと感じていましたし、収穫した野菜を使った料理を提供するようなカフェにと考えたこともありましたのでリノベーションして利用することにしました。

――広い土間はいろいろなことに使えそうですし、タイル貼りのキッチンは、アンティークな雰囲気もありすてきです。

多くの人がイベントやワークショップなどに使いやすいスペースにしたいと思い、靴のままで入れるようにコンクリートの土間を広くし、奥の畳の部屋も広く開放できるスペースにしました。もしカフェにするならトイレも必要だろうとバリアフリーのトイレも作りました。キッチンのタイル貼りは主人のアイデアです。

「母家」は地域とつながり、交流する場所に

歴史を感じる「母家」の内部。土間から上がると奥に和室が2間続きます。
タイル貼りの流しがある広い台所。料理教室の時には一度に10人以上が集まることも。イタリアンレストランのシェフによる料理教室やお菓子教室も開催されています。

――毎日、いろいろな教室が開催されていますね。

「母家」は2年ほど前にリノベーションしたのですが、そのころはちょうど子どもが幼稚園から小学校に上がる時で、幼稚園で知り合ったお母さんたちにも仕事を始める人が多かったんです。私がこんな場所をつくって場所貸しをしたいと思っているんだ、という話をしていたら、習い事の先生の資格を取ったからやってみたいというお母さんがいらして。英語教室とそろばん塾の先生は子どもの幼稚園友だちなんですけど、英語を教えるのに和室で開くのも面白いだろうって。他にもヨガやベビーマッサージの教室もあり、だいぶ充実してきました。

――地域の交流の場にもなっているのですね。地域とのつながりを意識して活動していることはありますか?

高津区からの依頼でイベントにもよく参加しています。高津区には、たちばな地区と高津地区があり、農家が多いたちばな地区では「たちばな農のあるまちづくり」という食と農を通じた取り組みが行われています。そこで定期的に開かれる「さんの市」というマルシェにも参加しています。マルシェ以外にも、高津区の主催で開催する、旬のものを楽しもうという親子で楽しむ農体験イベントにも協力し、子どもたちと一緒に畑でサツマイモを掘ったりしています。

新たな息吹が加わり、ますます楽しみな空間へ

「母家」の金曜日は“豆金の日”。澁谷さんの行動力で新しいアイデアがどんどんカタチになり、今後がますます楽しみな空間になりそうです。
“豆金の日”で行われているフェルト教室の講師は、澁谷さんの実姉でもある遠藤祐子さん。

――いろんなアイデアが湧き出ているようですが、新しい取り組みはありますか?

教室以外にもっと気軽にこの場所を使ってもらおうと、毎週金曜日に「豆金の日」というオープンハウスのようなことを始めています。ちょっとおしゃべりしたり情報交換できる遊び場みたいなもの。気軽に参加できて楽しめるようなことをやりたいと思って始めました。

――どんな内容ですか?

畑の野菜で作った料理を食べるプチ料理教室のブランチ会とか、グラフィックデザイナーの姉に協力してもらい、羊毛フェルト講座や小さなお子さんでも参加できる工作やお絵かきとか。農家として野菜を収穫して終わりではなく、野菜を使って何かできる場所にとはずっと思っていたこともあり、料理のものに力を入れていますが、まだまだ定着していなくてこれからですね。

――いろんな人たちが集まってきて、将来が楽しみな場所ですね。

そうですね。でも子どもがまだ小学生なので、家のこともあってなかなか手が回らないのが悩み。まだまだ思ったことができていないのですが、将来は「母家」のキッチンを子どもに任せ、収穫した野菜で農家キッチンなんてできたら楽しいなあ、なんて勝手な夢を膨らませています。

澁谷農園さんの野菜を私たちが料理しています。

小林範好さん

澁谷農園さんとのお付き合いは2年前から。
一般的な野菜の他、市場にはほとんど流通しない珍しい野菜、新品種の野菜を目にすることも多く、伺うたびに刺激やインスピレーションを受けています。

実際に畑で野菜の生育状況を見せてもらったり話を伺ったりということが、料理人として「うまい料理を作る」ということのモチベーションにもなっているんです。

「この野菜はこんな風にしたらおいしい」とか、「こんな料理法があるんだよ」ということを野菜を作っていただく澁谷さんに伝えることで、感謝の気持ちを表せたらいいなと思っています。

シチリア料理 カレット
オーナーシェフ 小林 範好さん

メニューを決めてから食材を仕入れるのではなく、仕入れた食材からメニューを決めるという小林さん。旬の珍しいイタリア野菜がそろう澁谷農園さんには、自宅が近いこともありお店に来る前にちょっと立ち寄り、まだ直売所に並ぶ前の採れたて野菜を手に入れてくるのだとか。お店が休みの火曜は月に1度、「母家」で畑の料理教室「プムダムーリ」を開催。いつもすぐに定員いっぱいになってしまう人気教室です。

更新:2016年11月22日 取材:2016年9月

東急沿線 地産地消マップ
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