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東急電鉄

空き物件とエリアの再生プランを作る――リノベーションスクール@東急池上線(後編)

リノベーションまちづくり@東急池上線 VOL.5

全国的に大きな地域課題となっている、空き家や空きビルの増加。その課題に対し、東急電鉄がリノベーションを通じたまちづくりに取り組み始めました。そのスタートとして、株式会社リノベリングの協力のもと、池上周辺エリアで2月に3回にわたるシンポジウムが、3月には実践の場となる「リノベーションスクール@東急池上線」が開催されました。今回は3日間にわたり行われたスクールの様子を、前編・後編に分けてご紹介。後編では、スクール最終日に行われた公開プレゼンテーションの内容をお届けします。

受講生が作り上げた事業プラン案を一般にも公開

会場となったのは池上本門寺近くにある朗峰(ろうほう)会館。当日は次々と来場者が詰めかけ、多数の立ち見が出るほどに。

受講生が4つのユニットに分かれ、3日間かけて対象物件の再生プランを作り上げた「リノベーションスクール@東急池上線」。その最終日に、不動産オーナーや一般来場者を前に、各ユニットが事業プランを発表するのが公開プレゼンテーションです。

1つのユニットにつき、持ち時間は8分。各ユニットが思いを込めて作り上げた事業プランの内容は、どんなものになったのでしょうか。講師陣からの講評を交えながら、ユニットごとに発表内容をご紹介します。

3日間考え抜いた、街の再生を目指す4つの提案

ユニットAの発表。メンバーは、スモールエリア内にある公民館や保育園やダンススクールを実際に訪ね、地域の生の声を集め、事業プランに反映しています。
現在右側にある銭湯の入り口とは別に、2階へ直接入れる入り口を左側に新設するという提案。夜はコンサートホールのような雰囲気です。

■銭湯の宴会場を、にぎわいを生み出す“街の劇場”に
ユニットA:久松温泉 2階宴会場

池上駅から徒歩3分ほどにある「久松温泉」は今年で61年目。地元でこよなく愛されている銭湯です。ところが近年、2階に設けられた宴会場がほとんど使われることがなくなり、その再生プランが求められていました。
ユニットAでは、湯冷めしない徒歩5分圏内をスモールエリアと定め、住人の需要をリサーチ。街では、地域コミュニケーションの場や世代間交流の場がないという声が多く聞かれました。そこで考え出したのが、2階に、幼稚園の発表会やダンススタジオ、ジャズライブや映画上映などができる街の劇場「FLOW HALL IKEGAMI」を設けるというプランです。まずは1階と2階、それぞれの利用者が直接アクセスできるよう入り口を2つに分けます。ホールに無料ゾーンを設けることで、銭湯利用者(特に高齢者)にもにぎわいを感じてもらえるよう工夫されています。運営するのはユニットAのメンバーが立ち上げる「池上湯守社」。劇場の利用団体から利用料をもらい、5年間で初期投資を回収する事業計画を立てています。

講師からは、収支についてより詳しい説明が求められた他、利用者が来る確信はどこから来ているのかといった突っ込んだ質問も。そんな中で会場の注目を集めたのが、ユニットAに参加していた久松温泉オーナーの息子さんへの質問でした。「池上湯守社ではどういう立場に?」という問い掛けに対し、「私の実家ですから、私が主体になりたい」という力強い回答が。さらに、マイクを向けられた久松温泉のオーナーがメンバーに感謝のコメントを述べる一コマも見られました。

コミュニティカフェ、シェアオフィス、レンタルスペースを兼ね備えた「なむなむてらす」。古墳エリアとの境界をなくすことで、一体感のある場を目指します。
「なむなむてらす」運営の中心となる八住さん。永寿院住職が街の人に向けて企画していたコンテンツも織り交ぜ、地域の人にさまざまなイベントを提供していきたいとのこと。

■お寺を、分断された地域コミュニティの“交流の場”に
ユニットB:永寿院 倉庫・駐車場

「永寿院」は、池上本門寺の近くにあるお寺で、創建は1630年代。宗派は日蓮宗です。敷地の南側には、徳川家康の孫の墓(万両塚)があり、弥生時代の竪穴式住居跡や古墳もあり、歴史的資産がある土地です。さらに住職は地域の語り部として、市民大学でも教壇に立つなど、池上の中でも個性が際立つお寺です。
そんな永寿院のリノベーションを担当したユニットBが見いだしたのは、街との関係が薄いという課題。そこで、“お寺を地域の日常にしよう”と考えました。提案したのが、永寿院の倉庫と駐車場エリアを利用してコミュニティテラス「なむなむてらす」をつくり、お寺を住民同士が気軽に交流できる拠点(ハブ)にしようというアイデアです。倉庫を囲むブロック塀を取り払い、敷地を芝生で覆うことで、多世代がゆっくりと過ごせる気持ちのいい場所にしようという内容でした。ユニットBは「株式会社なむなむ」を設立、サブユニットマスターの八住さんが中心となり運営していきたいということも発表しました。

講師からは、「倉庫と駐車場があるエリアと、竪穴式住居や古墳があるエリア、そしてその境界線も含めた全エリアを芝生で覆うと、1つのミュージアムのように見えるのでは」といった提案が。さらに高台にある永寿院付近には、健康のために階段を上ってくる人やトレーニングをする学生が多いことから、「そういう人たちの価値観に合わせたコンテンツを提供することで、より利用者が増えると思う」といったコメントもありました。

“木”をテーマに、公園全体を“村”として展開。池上で材木屋を営んでいるメンバーのネットワークも使い、木工教室の他に手作り遊具を作るプランも紹介されました。
「例えば、ここは豊かな森や水に囲まれた谷にある村であり、そこに丁寧な暮らしをする村人がいる、そんな物語性を出してみては」と株式会社ブルースタジオの大島さん。興味をもってもらうための演出に関する意見も出ました。

■公園の中に、人と木がつなぐ心地よい“村”をつくる
ユニットC:本門寺公園

池上本門寺のすぐ近く、大田区が管理する「本門寺公園」は、約2万8千平方メートルもある大きな公園です。ところが現在「高低差がありアクセスが悪い」「行く理由がない」など、近隣住人から関心を持たれにくく閑散とした状態となっています。

ユニットCでは、この状態を一種の“過疎化”と捉え、公園を“村”と定義することで、場を再生するプラン「ヒトトキトヒトトキ ―きになるビレッジ―」を考案しました。これは、人と木がつなぐ一瞬(ひととき)をつくり出そうという思いで名付けられたもの。ここではユニットメンバーを中心に、木工を楽しめるカフェを運営します。その他にも池上の働きたいママたちがカフェを出店できたり、ものづくりOBがワークショップを開いたりできる環境を整えることで、公園内がさまざまなアクティビティで埋まるよう仕掛けます。さらに最寄りのバス停の名前を「税務署前」から「きになるビレッジ前」に変更するなど、再生後のプロモーションアイデアも披露されました。

講師からは、公園を“村”に見立てたことや、“木”に着目した事業プランを評価する声がある一方で、「ここが他の物件と違うのは公共の場であること。公園は行政の管理している土地であり、住民のための場所。大田区民にとってのメリットを突き詰めて考えていくと、提案が通りやすくなるのでは」といった事業化に向けた具体的なアドバイスも飛び出しました。

ユニットDの発表。線路側に背中を向けていた建物の、“表”と“表”をひっくり返す。この発想の逆転が、事業プランを考える際のブレークスルーにとなったとか。
駅前商店街にある空き店舗は、その裏手がすぐ池上駅のホーム。ユニットDは、池上駅ホームと商店街の通りを行き来できる改札付きの店舗展開を提案しました。

■駅と商店街を直通に、人も活動も寄り集まる「池上寄駅」
ユニットD:駅前空き店舗

ユニットDが担当したのは、池上駅から徒歩1分、池上駅前商店街にある空き店舗です。建物は線路沿いにあり、店舗裏手からは池上駅のホームがすぐ近く。この立地を生かした提案をユニットDは考案しました。
この建物は、池上駅と商店街の間にあります。ここを通り抜けられたら駅はすぐそこ。建物の裏手に改札をつくることで、池上駅のホームから直接建物へ入れるようになり、そして商店街からも池上駅に直接行けるという仕掛けです。2階をカフェやバーにすれば、利用者が出勤前にコーヒーを飲んだり、仕事帰りにお酒を飲んだりができるように。また、商店街に通じる1階では、工房や教室を開きたい街の人が利用するレンタルスペースにするといった使い方もできます。このように人や活動がどんどん“寄ってくる”というイメージから、ユニットDはリノベーション後の店舗を「池上寄駅」と名付けました。
メンバーは池上在住メンバーを中心に「池上寄駅株式会社」を立ち上げ、カフェやバー、イベント関連の売り上げをもとに、5年間で初期投資を回収するという計画案を発表しました。

講師からは、「突拍子もなく、ロマンチックですてきな提案」など、内容を評価するコメントが次々と飛び出しました。さらに、「お寺が多い池上の特色を生かして、電車を待っている間に住職の3分説法が聞けるとか、地域性のある内容にすると実現可能性も高まるのでは」など、講師陣からも大きな期待を集めていました。

「リノベーションスクール」を体験すると、日常には戻れない

スクールマスターの嶋田さんによる、クロージングアクト。受講者だけでなく、行政、民間会社へ向けた厳しくも温かい要望が伝えられました。
閉校式の最後には東急電鉄 渡邊専務執行役員が、この池上線沿線を皮切りに東急沿線全体のまちづくりに積極的に取り組んでいくと力強く語りました。
大田区の松原忠義区長は、閉校式あいさつの後クロージングパーティーにも参加。3日間がんばった受講者をねぎらいました。

発表後には、スクールマスターである嶋田洋平さんが、スクール最後となる講演を行いました。そこで受講生に伝えられたのが「リノベーションスクールを体験したら、もう過去の日常には戻れません」という言葉。さらに「皆さんただ勉強をしに来たのではありません。スクール終了後は、決して立ち止まることなく、次の展開に向けた一歩をぜひ踏み出してください」と締めくくりました。

そして、今回の舞台となった大田区の松原忠義区長からは、「大田区には、商店街も風呂屋もたくさんある。でも、残念ながらその地域資源を生かしきれていない。皆さんの成果を、課題解決も含めて大田区のまちづくりに生かしていきたい」とコメント。地元出身の区長ならではの思いが込められたあいさつに、受講生も気持ちを新たにしたようでした。

閉校式後、修了証書を受けとった受講生は、別会場で行われたクロージングパーティ(懇親会)へ。発表に駆けつけてくれた永寿院の住職をはじめ久松温泉の田邊さん、大田区の松原区長など、さまざまな関係者と親睦を深めました。スクールを終えた池上在住の受講生の一人は、「みんなで一丸となって取り組むことができました。多くの人とつながりましたし、本当に何かできる気がします。提案内容も含め、これから池上の街を本気で変えていこうと思います」と今後への意気込みを語ってくれました。

経歴も職業も住む場所も違う受講生たちが集まり、3日間にわたり池上エリアについて議論を重ねた「リノベーションスクール@東急池上線」。濃密な時間を過ごした受講生たちが、これからどのような取り組みを展開してくれるのか。スクールは終了しましたが、受講生たちの「リノベーションまちづくり」はまだまだ始まったばかりです。今後の展開に期待が寄せられます。

更新:2017年4月6日 取材:2017年3月

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