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東急電鉄

「空き家・空き店舗等を活用したまちづくりプロジェクト」の事業計画づくり勉強会

2016年6月18日(土)・6月25日(土)開催 ―イベントレポート―

開催
2016年6月18日(土)・25日(土)
場所
カタリストBA
最寄駅
二子玉川

東京都内でも有数の“住宅都市”である世田谷区ですが、一方で、人が住まない「空き家」や「空き店舗」も増えています。そんな中、空き家・空き店舗を、まちづくり活動などに活用しようという気運が上昇。そうした取り組みの一つがこの勉強会です。集まったのは、空き家・空き店舗のオーナーと、空き家・空き店舗を使って何かをしたい団体や個人。おのおのが企画やアイデアを持ち寄り、まちづくりの専門家に指導してもらいながら、企画を実現するための事業計画づくりを行います。丸二日間にわたり密度濃く開催された勉強会。その様子をたっぷりとレポートします!

空き家オーナーと利用団体に“気付き”を提供したい

「世田谷トラストまちづくり」からは、最大300万円が助成されるプログラム『世田谷らしい空き家モデル助成』についての説明もあり、参加者もぜひ活用を検討してほしいとのコメントも。
内藤さんは「メインストリートプログラム」の手法を駆使し十数都市で実践するなど、豊富な経験を持つアーバンデザインの専門家です。
田村さんは、マンションの建て替えや団地再生などの建築プロジェクトにおける事業コーディネートの専門家。

勉強会を開催したのは、地域活性化をはじめとするさまざまな課題や政策を研究している「国立大学法人 政策研究大学院大学」、そして世田谷区と世田谷区民主体のまちづくり活動を推進する「一般財団法人 世田谷トラストまちづくり」です。

「世田谷トラストまちづくり」では、区内にある空き家や空き室などを地域の“資源”と考え、4年前より世田谷区から委託を受けて、地域貢献のための相談窓口を開設し、そのオーナーと利用団体のマッチングを行っています。今回は、その地域貢献型の“世田谷らしい空き家等の活用”を促進する支援の一つとして、オーナー、利用団体の事業計画づくりをサポートする勉強会を、「政策研究大学院大学」が各地で開催しているセミナーとタッグを組むという形で実施しました。利用団体がオーナーから信頼を獲得するための説得力のある企画づくりや、オーナー自らが実現させたいプランがある場合の改修・運営のコストイメージなど、ただアイデアを考えるだけではなく、より現実的なプロセスを経る実践型の講座となっています。

世田谷区が定義する「空き家等」とは、世田谷区内にある空き家・空き室・空き部屋を指します。

参加者は世田谷区内の空き家を実際に見学したのち、まちづくり専門家4人による講演を聴いて知識を深めました。

■「メインストリートプログラムとまちづくりの実践」
一般社団法人 日本メインストリートセンター副代表理事 内藤英治氏

全米2000を超えるエリアで実施され、世界の先進都市に広がっているまちづくり手法「メインストリートプログラム」が紹介されました。このプログラムでは、まちづくり活動を成功させるためには、4つのアプローチ(プロモーション、組織、デザイン、持続的資金づくり)と、「人材」育成が欠かせないと説きます。内藤さんからは「小さなエリアから連鎖を引き起こすことが大事」「歴史や地域のアイデンティティを最重要視すること」など、まちづくり活動のヒントとなる言葉もたくさん飛び出しました。

■「リノベーションプロジェクトの収支計画検討」
株式会社アークブレイン代表取締役 田村誠邦氏

田村さんは、より実践的な事業収支計画の立て方について説明しました。不動産賃貸事業を始めるケースを例に、収支計画を立案するための「採算尺度」の計算方法も紹介。この値がマイナスになればキャッシュフローが回らない、3~5%ならばぎりぎり成立するなどの、具体的な数値を示した解説もありました。また、建物をリノベーションして事業を始める場合、投資回収期間は、事業期間の半分以下で5年以内というのが成功の目安になる、といった話も。参加者の多くがメモを取りながら熱心に聴き入っていました。

“まちにひらく場”を運営するプレーヤーとしての経験談

安藤さんが「タガヤセ大蔵」運営で感じたことの一つが、「楽しそうな人の周りには楽しそうな人がいる」ということ。人材集めのためにも、自らが楽しむことはとても大事だとか。
近藤さんは、「人と○○の関係を考えてみる」ことをアドバイス。ヨガや瞑想などを体験できる施設を通して人と自然の関係を考えたり、神社の隣で紅茶が飲めるカフェで精神・宗教について考えたり。実際の空き家活用の事例を多数紹介してくれました。

■「タガヤセ大蔵プロジェクト ―チームと事業のつくり方―」
株式会社アンディート代表取締役 安藤勝信氏

築30年の木造アパートのオーナーだった安藤さんは、祖父が要介護となったのをきっかけに、空室の増えたアパートをリノベーション。デイサービス施設&まちの寄り合い所「タガヤセ大蔵」として再生させました。単なるデイサービスにはとどまらず、家族が所有する農地で高齢者や保育園児とともに農作物を育てたり、地域のNPOとともにイベントを行ったり、土地の歴史にまつわるツアーを開催したりと、さまざまな取り組みを実施。そうした経験から得た知識を一人のプレーヤーの立場から紹介。「どんな仕組みをつくるかよりも、誰とチームを組むのかが大事」といったアドバイスが、実際の収支計画などとともに披露され、参加者の強い興味を引いていました。

■「KYODO HOUSEでの実践と関係性のデザイン」
クリエイティブディレクター/編集者 近藤ヒデノリ氏

広告業界で活躍する傍ら、1年ほど前に世田谷区・経堂に自宅を新築、「KYODO HOUSE」を運営している近藤さん。都会において持続可能で豊かな生活を実践する「Art of Living」をテーマに、自宅をシェアスペースとして“住み開き”しています。そうした活動の背景となった「資本主義の質が変わり始めている」という話、また近藤さんが「KYODO HOUSE」に取り組むに到った直接のきっかけと考え方が紹介されました。

プロジェクトを事業計画に落とし込むために必要なこと

グループワークでは、まず自己紹介をし、おのおのが持ち寄ったアイデアや企画を伝えます。自分で事業計画づくりを進めてもいいし、他の人の企画に参加することも可能です。
1日目の最後には各グループのリーダーから中間発表が行われました。そこで講師から宿題をもらい、1週間後に行われるグループワークに向けて内容を練り直します。
グループワークの終盤。講師が各班を周り、それぞれのグループが考えてきた事業計画について、最後のアドバイスをしていきます。

まちづくりの専門家による講演で理解を深めたら、次はいよいよグループワークです。参加者は、空き家・空き店舗を活用したいオーナー、物件は持っていないけれど空き家活用のアイデアを持つ団体や個人、商店街の活性化を考える人、文化財の建物の活用法を模索する団体、建築の勉強をしている学生などさまざま。参加者は、あらかじめ決められた5つの班に分かれ、班内で自由にグループをつくります。そのグループごとに、空き家・空き店舗を活用したプロジェクトのアイデアを出し、講師からアドバイスを受けながら、より魅力的な事業計画をつくり上げていきます。

事業計画をつくるには、ただ「何をしたいか」を考えるだけでは事足りません。他のプロジェクトと差別化できる点を考えたり、プロモーション戦略を練ったり、収支計画、事業スケジュールを詰めていくなど、事業の細かい部分まで考え抜かなければなりません。そうした体験を通して参加者は、自分たちがプロジェクトを始める際には、何に気を付けないといけないのか、どういう発想をすることが大事なのか、気付くことができます。

例えば、住宅地にある空き家をリノベーションし、カフェを開きたいというアイデアに対し、講師からは、住宅地エリア(第一種低層住居専用地域)にある空き家の場合は、そもそもお客さんが入る店舗として利用することができない場合がある、といった法律上の指摘があり、目からウロコとなった参加者も。

空き家を障がい者のシェアハウスにしたいという参加者には、「ケアの専門家を雇う費用をどう捻出するかが課題」といった指摘。また、改装費用が心配という空き家のオーナーには、「建築学科の学生を住まわせて好きなようにDIYしてもらうのはどうだろう」といったアイデアが提供されるなど、時にヒントをもらい、時に鋭いツッコミを受けながら、各グループは二日間かけ少しずつ事業計画を練り上げていきました。

11組のグループが練り上げた事業計画を発表!

自分でつくり上げた事業計画を皆の前で発表する参加者。工夫を凝らした資料を見せながら熱弁を振るいました。
発表が終わると講師から質問が飛び、さらなる説明を求められるケースも。発表会には、ピンと張り詰めるような緊張感がありました。
講師の一人、日本メインストリートセンター・中山高樹さんの総評。「これからの空き店舗の再生は、店だけでなく、福祉・医療・子育てなどが加わって昔の商店街のようになるかも。民間の知恵が必要だ」というコメントが印象的でした。

事業計画の発表会では、各グループのメンバーがパワーポイントを使って、持ち時間8分のプレゼンテーションを行います。

空き家の「庭」を中心に地域に開放し、いろいろな世代が集う居場所づくりを企画したグループは、子育て世代の交流の場を提供したり、高齢者向けの健康体操教室を開催したり、庭の菜園で育てた野菜でランチを提供したりするといったプランを提案。講師からは収支計画の詰めがまだ甘いとの指摘はあったものの、実現の可能性が高く、大いに期待されるプロジェクトの一つとなりました。

ある文化財建築を所有する団体は、運営上の赤字を解消するため管理団体を公募することを企画。そのためのコンペを行う計画を発表しました。一般から管理団体を募ること自体に否定的なコメントはなかったものの、コンペをするにしても、そこで活動したいと思う人を育てる勉強会などから始めない限り失敗する可能性が高いと指摘。これからの課題が明確となった発表となりました。

またある参加者は、閑静な住宅街の歴史ある地域の空き家を、写真館や映画のロケ場所として提供する計画を発表。まちを知ってもらうきっかけや、まち歩きの拠点としても活用してもらうプランも組み入れました。講師からは、改装に費用がかなり掛かりそうなこと、将来オーナーが代替わりした際の「相続」の問題などが指摘されました。とはいえ、事業自体は面白いので地域で支える仕組みをつくっては、とのアドバイスもあり、こちらも期待値の高い発表となりました。

最後に講師から総評も。日本メインストリートセンターの内藤さんからは、「今は日本が“縮小する”時代。この時代に合った事業計画が必要で、今後は地域の文化性のある建物を生かすこと、人材を育てることが大切になる」と、これからのまちづくり活動の方向性を示すようなコメントがありました。タガヤセ大蔵の安藤さんは、「今、皆さんが感じている“違和感”が大事。一人一人がこの違和感を解消しようと動くことで、とてもすてきな社会になると思います」とメッセージ。近藤さんは、「その場所じゃないとできないようなことをおのおのが考えて、そこらしいものができてくれば、ワクワクするようなまちになっていく」とのコメントを。そして、アークブレインの田村さんからは、「どれだけ自分事になれる(主体になれる)かが勝負。世の中が縮小しても自分が縮小することはない。あきらめないでほしい。あきらめたらその時点で失敗になりますから」との力強いエールが送られました。

空き家・空き店舗の増加という大きな社会問題。これをまちづくり活動とつなげて解決するには、さまざまな課題があります。それでも、そのハードルを乗り越えようと奮闘する人が多数いること、そして、そういう人たちを応援する人もまたたくさんいることを実感できた価値ある勉強会となりました。

更新:2016年7月26日 取材:2016年6月

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